
一
霧の谷
豆は、霧を飲んで育つ。
標高二千メートル。ゲデブの朝は雲の中から始まります。テスファイェさんの畑では、実の赤さを一粒ずつ指で確かめてから摘みます。「急いで摘んだ実は、カップの中で急いだ味がする」——彼の口癖です。
豆と手仕事
霧の中で摘まれ、海を渡り、火にかけられ、湯に出会う。この店のすべての一杯には、九ヶ月ぶんの手仕事が沈んでいます。

一
霧の谷
標高二千メートル。ゲデブの朝は雲の中から始まります。テスファイェさんの畑では、実の赤さを一粒ずつ指で確かめてから摘みます。「急いで摘んだ実は、カップの中で急いだ味がする」——彼の口癖です。

二
火と耳
毎週火曜の夜、店の奥で小さな焙煎機に火が入ります。一ハゼの音、湿度、豆の香りの変わり目。数字はすべて記録しますが、最後の三十秒だけは、耳で決めます。雨の日は半目盛りだけ深く。それが下北沢の霧への、私たちの返事です。

三
一杯
九ヶ月の旅の終わりは、あなたの前の一杯です。細い湯を三度にわけて、九十秒待つ。器の縁のわずかな歪みが、唇に温度を教える。完璧ではありません。今日のための一杯です。
不完全なものだけが、今日と同じ味を二度と出さない。だから私たちは、明日も店を開けます。